「アオ」はオスのサラブレッドです。この牧場で生まれました。

 

競争馬をしていたときには違う名前がついていました。

「アオ」というのは牧場での呼び名です。

その目が青いからなのか、その毛色が青毛だからなのか、

あるいは、そのどちらもなのか本当の理由はわかりません。

気がついたら、みんなが「アオ」と呼んでいました。

 

アオは、とても期待されていました。

アオの姿を見た誰もが溜め息をもらし、

「この馬を私に譲ってくださいませんか?」

そう言いました。

やっとのことでアオを手に入れた馬主さんは、

今にも泣き出しそうに感激していたほどです。

 

でも、実際の競馬でアオは一度も勝てませんでした。

彼は、競馬で1等賞になることに興味がなかったのです。

調教師の先生は、

「稽古で誰よりも速いのになぜだろう?」

そう言って嘆きました。

 

ついに、調教師の先生はアオがあんまり勝てないので、

競走馬としてアオを訓練することをあきらめました。

そうしてアオは生まれ故郷の牧場に帰ることになったのです。

 

アオはホッとしていました。

競馬場で騎手のお兄さんにムチを入れられるのも、

他の馬がおっかない顔で睨みつけてくるのも嫌いだったからです。

「早く牧場に着かないかな。」

馬運車で揺られていたアオは、いつしか眠っていました。

 

アオは、お友達と牧場を走り回る夢を見ました。

みんながニコニコ笑っています。

アオも嬉しくて、いっぱいニコニコしました。

 

ガラガラと砂利を踏む音でアオは目が覚めました。

牧場はもうすぐそこのようです。

その時、車がひときわ揺れて停まり、

『ギーッ』という音とともに扉が開きました。

まばゆい光の中に緑の牧場が広がっています。

アオはついに懐かしい牧場に帰ってきたのです。






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