「ソラ」はメスの猫です。この牧場で生まれました。
「アオ」が競走馬になるために牧場からいなくなってすぐ、
美しいグレーのお母さん猫が4匹の子猫を産みました。
その中でも一番お母さんに似ていたのが「ソラ」です。
お母さんはソラたちを生むとすぐに死んでしまいました。
兄弟たちはよそにもらわれていきましたが、
お母さんそっくりの「ソラ」だけは牧場に残ることになったのです。
ソラは、自分の暮らす牧場が好きではありません。
馬に噛まれたからです。
赤ちゃんだったソラは、
のどをゴロゴロ鳴らして馬に近づいた時に、
突然ガブリとやられました。
ソラは、ただ仲良しになりたかっただけなのです。
それ以来ソラは、競走馬ばかりいるこの牧場ではなく、
乳牛が飼われている隣の牧場で遊ぶようになりました。
牛たちは、遊びにきたソラをいつも背中に乗せてくれます。
「お母さんみたい。」
母のぬくもりを知らないソラは、
幸せな気持ちでいっぱいになるのです。
いつものように、お母さん牛の背中でソラが昼寝をしていると、
1台のトラックが牧場にやってくるのが見えました。
少しだけ気になったソラは、
爪を立てないようそっと背中から飛び降り、
自分の家に向かって歩き出しました。
トラックから1頭のサラブレッドがひかれて出てきます。
その馬の目は、他の馬のそれとは違って見えました。
ソラが知っているのは、草食動物のくせに肉食獣のような、
ギラギラした目の馬ばかりでした。
「こんな優しい目の競走馬もいるのね。」
ソラは少し感心すると、
さっき伸びをすることを忘れていたことに気がつき、
いつもより大きく脚を前に出したのでした。