「あっ猫だ!」

 

突然タクちゃんが大声をあげ、

お化け屋敷に向かって駆け出しました。

あわてて自分もつづきます。

 

 ブロック塀の外から中をうかがうと、

庭のまんなかあたりに1匹の白い猫がいました。

母屋に向かって歩いています。

子供たちの足音で、猫はその歩みを止め振り向きました。

 

お化け屋敷の話

 小学生のころ、団地周辺の林でよく遊んでいました。

本当は、それは林と言わず里山と言うらしい・・・

大人になって知ったことです。それはともかく、

そこから少し見下ろす位置に古びた小さな家がありました。

 

ブロック塀で囲まれた庭には、

まばらに生えた雑草が膝の高さまで伸び、

入り口から向かって左側にコンクリートの井戸、

右側に長い木の棒が無造作に置かれた納屋があります。

中央奥の母屋はトタン屋根の平屋、

裏手の竹林が日光を遮るのでいつも日陰です。

朽ちかけた縁側の下にはいつも草履が転がっています。

 

 

 

 林の木に寄りかかってドングリの帽子をはずしていると、

タクちゃんが言いました。

 

「あそこんちってお化け屋敷なんだよ。」

 

例の家を指差しています。

そういえば、その家の人を見たことがありませんでした。

自分は、『お化け』という言葉に恐怖を感じたのですが、

 

『お化け屋敷なもんか。

 だって屋敷ってのは2階建てのはずだ。』

 

と心の中で反論しました。

 

「ホントだよ。ユズルくんが言ってたもん。」

「お化け、ホントにいんのかな。」

「お化けがいっからお化け屋敷なんだよ。」

「ふ〜ん、おっかないね。」

 

自分は平静を装っていましたが、

その実、背筋を何かが這っているような

奇妙な感覚におそわれていました。

悟られないように、

ギュッと半ズボンの裾をつかんだ時です。



一瞬2人は息を飲みました。

その目が、左右色違いだったからです。

片方が青、もう一方は緑です。

『こんな猫っているのか。』

もう一度その不思議な瞳を眺めました。

 

「化け猫だ!」

 

タクちゃんがドングリを猫に投げつけようとしています。

 

「ダメだよう。」

 

自分は力なく止めました。

2人とも化け猫の報復を恐れていたのかもしれません。

タクちゃんは振り上げた腕を降ろしたのです。

 

その時、お化け屋敷の縁側の窓がガタピシと鳴り、

少年たちはその場で動けなくなりました。

 

 

 

 一段と大きなガタピシの後、しわがれた声がしました。

 

 「シロ、こっちさ来い。」

 

その声を合図に、少年たちは何かを思い出したように、

 

「うわ〜っ!!」

 

と声をあげると林に向かって走り出しました。

さっきの木のところにつき、もう大丈夫と確信すると、

恐る恐るお化け屋敷の方を振り返りました。

 

そこには、茶碗を持ったおばあちゃんと

ピーンと尻尾をあげて、

おばあちゃんの足許をグルグルと歩く白い猫が見えました。

 

 

2人はまだ少しハァハァしたまま笑い、

 

「お化け、いなかったね。」

 

そう言いながらドングリを拾い上げると、

家とは逆の方へ思いっきり投げたのでした。

 

 



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